2005年10月15日

古川日出男 沈黙

4877283226沈黙

古川 日出男


幻冬舎 1999-07

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古川日出男の二作目だったという作品。
主人公は薫子、あるいは「ルコ」という女の子。そして、「ルコ」という音楽だ。

古川日出男の作品の特徴として、時間、そして視点が飛ぶ。
もちろん飛んだことはわかるように書かれているのだが、それにしてもかなり戸惑う。
展開が唐突だからだ。

ストーリーとしては、「ルコ」という音楽の系譜、そして薫子が「ルコ」と出会って、「ルコ」と同化していく流れが同時進行で展開していく。 その間に、ルコの先祖、大瀧修一郎にまつわる各種の話がやはり神の視点で展開される。
薫子は弟を思い出す。 弟は小学生のある日鍾乳洞の中に消え、また戻ってから人間が変わった。そして薫子は「ルコ」を通じて弟と運命の再会を果たす。

なかなか面白いストーリーだ。入れ子になって何層にも話が展開する。
その中で、「ルコ」という音楽が歴史の中でどう発生し、どうはぐくまれ、あるいは隠されて行ったかということが語られていく。そして、薫子が「ルコ」と深いかかわりを持っていくプロセスも語られていく。

だが、この小説を読むのは、疲れる。

とにかく、展開が唐突だ。
たとえばこうなっている。
***(引用)
「おまえは、すぐに、プロとしてつかえるぞ」祝田慶典は確信を持っていう。

獰猛な舌とはなにか?あたしは知らないし、祝田慶典も知らない。
***(引用了)
前の一行は、昔の話で、大瀧修一郎に対して言われた言葉だ。このストーリーは、ルコが読んでいるノートから、ルコが頭のなかで再構成したものだと思われる。だが、時代は過去のものだ。そして語りは神の視点での声によってなされている。

そして次の行は、ルコの現在での語りだ。いきなり一人称に飛ぶ。

こんな展開があちこちにある。
ストーリー構想はすごいと思うし、そのための研究もかなりなされた作品だろうと思う。
古川日出男らしさは出ている。
しかし、正直に言って、読みにくい。あまりに視点が変わりすぎるからだ。

この前紹介した、米澤 穂信の「クドリャフカの順番」では、各章がそれぞれ別の登場人物の視点で語られる。それならば、まだわかりやすい。ところがこの作品は、文中でどんどん変わっていくのだ。

最近読んでいた、すがやみつる先生(知っている人も多いだろう。あの「ゲームセンターあらし」を書いた漫画家だ)のブログに、「視点」のことが出ている記事がある。
http://www.m-sugaya.com/blog/archives/000257.html
コメントの部分に、夏目房之介先生や長谷邦男先生(赤塚不二夫先生のブレーンとして有名。「赤塚不二夫のことを書いたのだ」にも、確執を含めてずっと登場している。)なども書いている、かなり豪華なトピックになっている。

簡潔にいうと、視点が変わる小説はとても読みにくい。そういうものを書く人は、小説を書くのに慣れていないか、漫画や映像のように、視点の変化に柔軟に対応できるメディアに慣れすぎている人であるのかもしれない、というような議論だ。

古川日出男の場合、これが二作目ということでまだ気負いもあったのかもしれない。
かの大傑作「アラビアの夜の種族」に至るまでのステップだったのかもしれない。

今、古川日出男が同じ話を書いたらどうなるだろうか。きっと、視点の変え方やプロットの作り方もかなり変わってくるのではないだろうか。
読者サービスもある程度必要なのだ、ということを、彼もいまや知っているだろうから。

いずれにせよ、この作品のあちこちにも古川日出男らしさは出ている。文章にリズムがあるのは他の作品と同じだ。そして衒学的なまでの細部へのこだわりも。

古川日出男が好きな人は、読むべき作品だと思う。
だが、そうでない人は、この作品をいきなり読んで、彼に対してネガティブな先入観を持つ可能性があるかもしれない。

その意味で、万人にお勧めの本とは言いがたいのが残念だ。
結末にしても、議論がある結末だと思う。

お勧め度:☆☆☆  古川ファンはぜひ読んでください。彼の手法に寛容な人にとっては、かなりの名作だとも言えるかもしれません。そうでなければ、この本より前に、とにかく「アラビアの夜の種族」を読んでください。
posted by 濫読ひで at 22:28| Comment(0) | TrackBack(0) | 作家は行 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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