さよならもいわずに 価格:819円(税込、送料別) |
* ビームコミックス
* 上野顕太郎
* エンターブレイン/角川グループパブリッシング
・ISBNコード: 9784047266025
上野顕太郎という漫画家を知っているだろうか?
「五万節」という作品ひとつだけで日本のマンガの歴史に残してもよい作家だ。
彼はナンセンスマンガの作家だし、絵がうまい、とか万人向けの絵だ、とはとても言えない。
だが、この本は彼にとって、特別の作品になっている。なぜか?これは、彼の死んだ妻のことを描いた作品だから。
妻が死んだこと、そしてその後の悲しみをそのまま描いた作品になっている。妻が死んで5年もたち、悲しみはすでに昇華されている。だからこそ抑えた記載にもなりうるのだろうが、それでもこの作品は、妻を失った悲しみを圧倒的に描き出している。
作者の絵は本来「ヘン」だ。人の顔の描きかたも美人に描くわけでもないし、背景なども歪むことがある。
だがこの作品では、「世界の歪み」はそのまま彼が見る世界になっている。妻を失ったことは、世界をまっすぐ見られなくなる、ということでもあるのだから。
「あえて俗っぽく言うなら、
表現者にとっての「おいしいネタ」を描かぬ手はない」
と偽悪的に書いてはいるものの、これは彼にとって、過去を過去として乗り切るために必要な作品でもあったのだろうと思う。
「この作品の最後にあるのは絶望だ。だがその先には希望があることを今の私は知っている」
と彼は言う。
そして、新たな希望。新たな家族を彼は得た。
その家族を傷つける可能性が高いとしても、
彼はこの作品を描いた。自分のこの思いを誰かに知ってもらいたかった、ということだ。
作品の最後に、彼は出会ったころの時間に戻り、そのころの彼女を描いた。アップの顔は、彼が思い出す、一番美しい彼女の顔なのだろう。彼女は、さよならもいわずに去った。だが、作品内で、彼は彼女にさよならを言わせた。そして自分もさよならを言った。 過去に決別し、新しい家族と歩いていくために。
おすすめ度;☆☆☆☆1/2 悲しみを乗り越えるのは希望です。
ラベル:上野顕太郎



